月別アーカイブ: 2017年2月

未読無視の女 ~V2案件新人キャビンアテンダント~

____


垣根は相手がつくっているのではなく、
自分がつくっている。

アリストテレス

____




『ごめん、今日はみんなと一緒に帰るって約束してるの』



2:30のV2。3人組のCA軍団からなんとか1人に引き抜いてなごんでいたが、どうしても連れ出すことができなかった。「また戻るよ。少しだけ飲みに行こう」粘ってもダメだった。1年目のCA。背が高くて細身。きれいな瞳。彼女とふたりきりでとてもいい感じの雰囲気まで仕上げたつもりだった。でも、最後まで彼女は首を縦に振らなかった。


「即案件見つけた!入り口付近来い!」パートナーのRから緊急のラインが届いた。この日ハルトはRとのコンビでクラブナンパをしていた。本気で迷った。しかし、今日はパートナー優先だ。「了解」すぐに返信をする。そして、CAに「もう行かなきゃ」と告げる。『うん』彼女がうつむきながらそう答えた。もう二度と会えないと直感で思った。手早くラインを交換し、「連絡返してね」と一言告げ、ハルトはRの元へと向かった。


Rの選球眼は正しかった。お持ち帰りして欲しい、と言わんばかりの食い付きの女子大生二人組だった。「OPERATION 1」を選択。人混みをかき分け、彼女たちを連れてV2を後にした。



____




3:30 タクシーでR宅に到着。音楽をかけ、白ワインで乾杯。少し談笑した後、ギラ。形式グダを突破して即。Rとチェンジ。2即。これ以上ない成功だった。


4:30 Rの家のお風呂にそれぞれ入って遊んでいた。Rの家に歯ブラシ・髪を縛るゴム、基本的な化粧道具が一式あることに、女の子たちはドン引きしていた。みんなでイチャイチャして楽しい時間を過ごしていた。ハルトは楽しめなかった。CAに送ったラインは、未だに既読にすらなっていなかった。即ブロックか。そう思うと胸がぐっと痛くなった。皆の前で笑顔でいるのがほんとに辛かった。


7:00 泊まりたい、とねだる彼女たちをなだめて、駅まで送っていった。バイバイしたあと、Rが言った。「お前気になる案件いるんだろ」その通りだった。結局、未だに既読になっていなかった。「このラインがまずかったのかな」すっかり自信を失っているハルトは、彼女に送ったラインを見せるため、Rに携帯を渡した。Rはそれを一瞥した後、何かのボタンを押して、携帯を耳元に持っていった。



「♪♪♪♪♪♪」



「おい!!」ハルトは叫んだ。食い付きのない相手には、絶対にしつこく連絡をしてはならない。RはCAに電話をかけていた。「ブロックだろどうせ」「いや、音なるぜ」「まじで?」スピーカーでしばらく発信音を聞いていた。突然、発信音が途切れた。



『○○くん?』



彼女の声だった。後ろでは、大勢のガヤガヤ声が聞こえていた。「そうだよ。今どこにいるの?」『六本木。まだ飲んでるの』しばらく沈黙が走った。彼女はまだ六本木にいた。そして、ハルトの電話に出てくれた。一拍置いて、言った。



「抜けてこれるよね?これから飲みに行こう」



親指を立てて見送るRに感謝のアイコンタクトを送り、ハルトは彼女との待ち合わせ場所に向かった。彼女と合流し、手つなぎでタクシーへ。キス。Dキス。ハルト邸。即。本当に情熱的なセクだった。



彼女たちはクラブのスタッフの知り合いを紹介され、大勢で朝まで飲んでいた。彼女はラインをプレビューで確認していた。連絡を返そうと思ったころにはもう朝で、連絡しても返事がないと思ったらしい。



『あーあ、抜け出した言い訳どうしよ』

「まずかった?」


ハルトは聞いた。



『ううん』

『電話かけてくれてありがとね。嬉しかったよ』



彼女は笑いながらそう言って抱きついてきた。『私強引なの好きなの!』彼女は続けてそう言った。ハルトはRに感謝した。ひとりじゃこんなこと出来なかった。一歩を踏み出せたのは、まるっきり全て彼のおかげだった。