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『ほしいものが手に入らないという最大の理由は、
それを手に入れたいと望んだからだ』
三島由紀夫
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「やばい、もう限界!」
友人Sがうめいた。3時のROAビル前。一向に進まない男性列に並んでかれこれ1時間半。友人Sの膀胱はもう限界だった。
六本木のV2はとにかく並ぶ。もちろん男性だけだ。女性はフリーで別列でどんどん入っていく。他にも男女ペアで可愛かったり女性の数が多ければ、男もろとも優先レーンでボディチェックを受けられる。
しかし男性ペアはすべての対応において底辺だ。VIP客やファストパスの客にどんどん抜かれていく。しまいには、男性がすでにクラブ内に多い場合はどんなに待ってもクラブに入れてくれない。もちろんトイレなんていけない。行こうとして列を抜ければ、どんな理由があれスタッフに見つかり、最後尾に戻されてしまう。
それでも、ハルトとSは男性列に並んでいた。ピークタイムに入り、速攻でお持ち帰り案件をゲットするためだ。確かに外は寒くてきつい。しかし、だからと言って早めにクラブに入ると、体力を消耗してピークタイムに思うようなナンパができない。だから、こうして待つほうがトータルでは体力の温存に繋がる。
続々と、行列から落脱者が出ていく。ハルトとSは、とにかく、目立たないようにじっとしながら、スタッフがクラブに入れてくれるのを待った。
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『だめ。今日は始発までここにいるの』
クラブに入って5声かけ目の女の子。ハルトは連れ出しグダを崩せないでいた。友達と分離させてなごんで10分。かなりいい感じになれたと思ったが、どうしても友達と帰ると聞かなかった。
いろんなテクニックを使った。友人説得、時間制限の設定。。 どれもだめだった。これは彼女と友達の信念なのか。それとも、ハルトが魅力的でないだけなのか。
彼女は北陸出身のOL。肌が白くてとてもかわいかった。好みだった。本来ならば、ここまでグダられたら放流すべきだ。しかし、ハルトはどうしても諦めきれなかった。前のめりになっていた。彼女を離すまいとクラブの端に行き、会話が途切れないようにずっとおしゃべりを続けていた。
『約束だよ。ほんとに誘ってね♪』
最大限会話を盛り上げて、アポの約束をして、いい感じでその場を去った。Sはいない。時間は4:30。場は死んでいる。ここから奇跡の即を狙いにいかなくては!ハルトはぐるぐるとクラブ内を回った。いままでバンゲした女の子に一斉にLINEをした。何件か反応があった。それらに賭けてみた。
『分かった。うまくいったら、連絡するね』
三人組の女の子の、ラウンジ嬢の子が良い反応だった。始発が出て5:30。怒涛のストリートナンパをしていると、彼女から連絡があった。「いま六本木向かってるよ♪」
六本木で彼女と落ち合った。そのまま手つなぎでタクシー。自宅へ。ノーグダ即。
彼女には、始発で帰る道ときに彼女の友達をまいて六本木戻ってくるように伝えてあった。細身のラウンジ嬢。外見は良いが、少しメンヘラな感じがした。
ハルトはケータイを見た。北陸子とのLINEは彼女の未読で途切れたままだった。7:00。未だに未読のままだ。彼女は今頃、何をしているのだろう?家に帰っているなら既読になるだろう。ということは、いま誰かといるのか。あの後、誰かと一緒に帰ったのか。。。
すごく憂鬱な気分になった。敗北感がハルトを襲ってきた。どうしても彼女をものにしたかった。でも現状、それはできなかった。
悔しかった。どうしても欲しかったのに。でもまだ準即のチャンスがあるかもしれない。しかし、このメンタルの状況で準即できるだろうか?うまくいかない。もどかしい。この感覚、すごく嫌いだ。